うずひこねえ、次、何観る?
VOD(動画配信サービス)の海を漂流しながら、僕はリモコン片手につぶやいた。
うずひこうーん……
隣で分厚い本を読んでいた妻が、画面をチラリと見て言った。
うずひこどうせ観るなら、観た後に世界がちょっと違って見えるような、そういうのがいいな。
うっ、手厳しい。でも、的を射ている。 僕たちは、本当にたくさんの映画を観てきた。だからこそ、ありきたりな刺激や、どこかで観たような筋書きでは満足できなくなっている。
うずひこじゃあ……どんなのが観たい?
うずひこそうね……例えば、『決断』の映画とか
うずひこ決断?
うずひこうん。でも、よくある『世界を救う!』みたいな大げさな決断じゃなくて。もっとこう……日常の中で、ほんの少し勇気を出すとか、ずっと悩んでいた会社を辞めることとか、そういうリアルな迷いが描かれているもの
その一言に、僕はハッとした。 確かにそうだ。
僕たちが今、本当に観たいのは、スーパーヒーローの「大いなる決断」ではない。 明日、会社に行くのが少し憂鬱な自分。 新しい一歩を踏み出すのが怖い自分。 「本当にこのままでいいのか」と自問する自分。
そんな自分の背中を、そっと押してくれるような。 あるいは、自分とは全く違う選択をした主人公を見て、「ああ、そういう生き方もあるのか」と、視界が開けるような。
うずひこそれだ。いいね、そのテーマ
僕はリモコンを置き、PCを開いた。
わかった。じゃあ今回は、本気で『処方箋』になるようなリストを作ってみよう
……という会話から始まった、今回の特集。
あなたも今、何か小さな、あるいは大きな「迷い」を抱えていませんか?
この記事は、そんなあなたのための「映画処方箋」です。 単なる「おすすめ映画リスト」ではありません。あなたの今の悩みに寄り添い、「なぜ今、この作品があなたに必要なのか」を、僕たちなりの視点で深掘りしていきます。
観終わった後、きっとあなたの「決断」を後押しする一本が見つかるはずです。
なぜ私たちは「決断の物語」に惹かれるのか?
そもそも、なぜ私たちはこれほどまでに「決断の物語」に惹きつけられるのでしょうか。
それは、映画というメディアが、非常に安全な場所(あなたの家のソファ)から、他人の人生を疑似体験できる「人生の意思決定シミュレーター」として機能するからです。
もし、自分が主人公と同じ状況に置かれたら? 『ハドソン川の奇跡』のサリー機長のように、わずか208秒で155名の命を背負う選択を迫られたら? 『ミスト』の主人公のように、絶望的な状況下で倫理観を試されたら?
私たちが物語に求めているのは、実は主人公の「答え」そのものではありません。 答えを盲目的に真似したいわけではないのです。
私たちが求めているのは、主人公が悩み、苦しみ、選択するプロセスに立ち会い、「あなたならどうする?」と問いかけられる、あのスリリングな体験なのです。
現実の人生では、一度きりの「決断」をやり直すことはできません。 でも、映画なら。
無数の人生の岐路と、無数の「もしも」の決断をシミュレーションできる。 だからこそ、私たちは映画を観るのです。
今回の特集では、そんなシミュレーターの中でも、特に現代を生きる私たちのリアルな悩みに響く作品を厳選しました。
あなたの「迷い」はどのタイプ? 映画処方箋インデックス
まずは、あなたの今の「心の状態」を自己診断してみましょう。 あなたの迷いに、最も近い処方箋を選んでみてください。
【タイプA】日常の「半歩」が踏み出せない
- 今の生活に不満はないが、かといって満足もしていない。
- 何か新しいことを始めたいが、きっかけが見つからない。
- 「どうせ自分なんて」と、一歩を踏み出す勇気が出ない。
【タイプB】キャリアや人生の「岐路」に立っている
- 転職、独立、結婚、引越しなど、大きな選択を迫られている。
- 自分の「情熱」と「現実」の間で揺れている。
- 古い常識や組織と戦い、自分の道を切り開きたい。
【タイプC】環境を捨て、「辞める決断」をしたい
- 今の場所(仕事、人間関係、環境)から抜け出したい。
- すべてをリセットして、再出発したいと願っている。
- 「捨てる勇気」や「手放す強さ」が欲しい。
【タイプD】あえて「決めない」という選択を考えたい
- 周りは「早く決めろ」と言うが、しっくりこない。
- 「何もしない」ことや、「決断を保留する」ことにも意味があるのでは?
- 流れに身を任せるような生き方に惹かれる。
どのVODサービスで探すか自体を迷っている方は、こちらの比較記事も参考にどうぞ
▶【2025年最新版】動画配信サービス(VOD)15社徹底比較!あなたにとっての評価5のサブスクは?
あなたの「迷い」に効く処方箋、どこで観ますか?
※全エピソード見放題/追加料金なし
【処方箋A】日常の「半歩」を踏み出す勇気をくれる映画 7選
毎日をやり過ごすことはできる。でも、何かが足りない。 そんなくすぶる心に火を灯し、「よし、明日からこれをやってみよう」という小さな一歩を応援してくれる作品たちです。
※2025年10月29日時点の情報です。最新の配信状況は各VODサービスでご確認ください。
1. 『LIFE!』 (2013)

- 処方箋: 妄想ばかりで行動できなかった主人公が、人生最大の冒険に出る物語。
- ここに効く: 「いつかやろう」が口癖になっているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
主人公のウォルター・ミティは、雑誌「LIFE」の地味な写真管理者。彼の特技は「空想(妄想)」で、現実では上司に言い返すことも、好きな人に声をかけることもできません。
そんな彼が、廃刊号の表紙を飾る「決定的瞬間」のネガを探すため、グリーンランド、アイスランドへと文字通り「飛び出す」ことになる。
この映画の素晴らしい点は、「ヒーローになれ」とは言わないことです。 ウォルターは最後まで地味な男のまま。彼が手に入れたのは、世界を救う力ではなく、「妄想ではなく、現実で行動する」という小さな、しかし決定的な変化だけ。
サメと戦い、ヘリから飛び降り、火山噴火から逃れる(!)彼の姿は、「最初の一歩」さえ踏み出せば、人生はこれほどまでに面白くなる可能性があると教えてくれます。観終わった後、きっとあなたは「ちょっと散歩のコースを変えてみよう」とか、「あの店に入ってみよう」とか、そんな小さな一歩を踏み出したくなるはずです。
2. 『プラダを着た悪魔』 (2006)

- 処方箋: 理不尽な環境でも「決断」し続けることで、本当の自分を見つける物語。
- ここに効く: 今の仕事が「不本意だ」と感じているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
ジャーナリスト志望のアンドレアが、ひょんなことから一流ファッション誌の鬼編集長ミランダ・プリーストリーのアシスタントになります。ファッションに無頓着な彼女が、理不尽な要求の嵐に揉まれながら成長していく姿は、痛快なサクセスストーリーです。
ですが、この映画の本質は「オシャレになって成功した」ことではありません。 彼女の「決断」の物語です。
最初は「ここは私の居場所じゃない」と文句を言っていたアンドレア。しかし、同僚に諭され、「本気でやる」と決断します。そこから彼女の快進撃が始まります。ミランダの無茶振りに応え続け、ついには認められていく。
そして、最大のクライマックス。誰もが羨む地位を手に入れかけたパリで、彼女はミランダに「NO」を突きつけ、その場所を「辞める」決断をします。
不本意な場所でも、そこで「やると決める」決断。 そして、すべてを手に入れても、「これは自分の道じゃない」と捨てる決断。
どちらも正解。決断し続けることでしか、自分の本当の道は見えてこない。そんなキャリア論としても、非常に深く響く一作です。
3. 『イエスマン “YES”は人生のパスワード』 (2008)

- 処方箋: すべてに「NO」だった男が、すべてに「YES」と答える決断をするコメディ。
- ここに効く: 物事をネガティブに捉えがちなあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
ジム・キャリー演じる主人公カールは、何事にも「NO」と答える超ネガティブ男。しかし、とあるセミナーに参加し、「すべてにYESと答える」という誓いを立てさせられてしまいます。
そこから彼の人生は一変。怪しげな勧誘、無茶な頼み事、すべてに「YES」と答える羽目に。 一見、最悪な状況ですが、この「強制的な決断」が、皮肉にも彼の人生を豊かにしていきます。新しい出会い、新しいスキル、新しい恋。
もちろん、何でもかんでも「YES」と言えばいいわけではありません。映画の後半では、その弊害もきちんと描かれます。
しかし、普段「どうせ無理だ」「面倒くさい」と行動を制限している私たちにとって、カールの姿は強烈なカウンターパンチ。「もし、あの時『YES』と言っていたら?」 そんな“もしも”を、ポジティブに体験させてくれる作品です。
4. 『リトル・ミス・サンシャイン』 (2006)

- 処方箋: バラバラの家族が、少女の「決断」のためにオンボロバスで旅に出るロードムービー。
- ここに効く: 家族や周りの目と「自分のやりたいこと」の間で悩むあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
家族全員が、何かしらの「負け組」。自己啓発セミナーにハマる父、ニーチェかぶれの無口な兄、自殺未遂の叔父、口の悪い祖父。そんな一家が、末娘オリーヴの「美少女コンテストに出たい」という決断を叶えるため、ボロボロのバスでカリフォルニアを目指します。
旅の途中、家族は次々とトラブルに見舞われ、それぞれの「負け」が露呈していきます。 しかし、彼らはオリーヴの「決断」のためだけに、一つになって突き進む。
クライマックスのコンテストシーンは、映画史に残る名場面です。 世間の「美しさ」の基準とはかけ離れたオリーヴが、亡き祖父に教わったダンスを披露する。会場が凍りつく中、家族が取った「決断」とは……。
「勝ち負け」や「世間の目」なんてどうでもいい。 自分が「やると決めた」ことを、信じてくれる人がいる。それだけで人生は肯定される。そんな温かい涙が止まらない傑作です。
同じく「家族」をテーマにした海外ドラマ『THIS IS US』の解説はこちら
5. 『(500)日のサマー』 (2009)

- 処方箋: 運命の恋だと信じた男が、失恋を経て「現実」を受け入れる決断をする物語。
- ここに効く: 過去の恋愛や失敗を引きずっているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
「これはラブストーリーではない」というナレーションから始まる本作。 主人公トムは、サマーという女性に出会い、「彼女こそ運命の人だ」と信じ込みます。しかし、二人の関係は「(500)日」で終わりを迎える。
映画は、トムが「なぜフラれたのか」を時系列バラバラに振り返る形で進みます。 彼が「最高だった」と思い出す日(運命を感じた日)と、サマーが「最悪だった」と感じる日(すれ違いを感じた日)が、皮肉たっぷりに描かれます。
トムは、自分の「理想」や「運命」というフィルターを通してしかサマーを見ていなかった。 彼に必要な「決断」は、サマーを取り戻すことではありません。「運命なんてなかった」と認め、彼女を過去として手放し、「現実」の人生を再び歩き出すことでした。
失恋の痛みを、これほどまでにリアルに、そして最後には希望を持って描いた作品は稀有です。過去の「もしも」に囚われている人にこそ、観てほしい処方箋です。
6. 『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』 (2014)

- 処方箋: 名声も地位も失った一流シェフが、「本当にやりたかったこと」を取り戻す決断。
- ここに効く: プライドが邪魔して、新しい一歩が踏み出せないあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
一流レストランの総料理長カールは、評論家とのトラブルでSNSを炎上させ、すべてを失います。 どん底の彼が、元妻の勧めで始めたのは、オンボロのフードトラックでのサンドイッチ販売でした。
プライドを捨て、息子や元同僚と汗だくで働くカール。 彼が「決断」したのは、「三ツ星を取り戻す」ことではなく、「自分が本当に作りたい料理で、人を笑顔にする」という原点に戻ることでした。
SNSで「炎上」した彼が、SNSを「武器」にして復活していく現代的な展開も痛快。 そして何より、劇中のサンドイッチが本当に美味しそう!
観終わった後、お腹が空くと同時に、「自分も好きなことを本気でやってみよう」と、とてもポジティブな気持ちになれるはずです。
7. 『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』 (1997)

- 処方箋: 才能に恵まれながらも心を閉ざした青年が、恩師との出会いを通じて「内なる一歩」を踏み出す物語。
- ここに効く: 過去のトラウマや劣等感から、「どうせ自分なんて」と一歩を踏み出せないあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
主人公のウィルは、MIT(マサチューセッツ工科大学)で清掃員として働きながら、誰も解けない数学の難問をこっそり解いてしまうほどの天才。しかし、彼はその才能を活かそうとせず、恵まれない境遇から抜け出すことを恐れ、仲間とつるんで喧嘩に明け暮れています。
彼は、自分が傷つく前に相手を拒絶し、「どうせ裏切られる」と心を閉ざしています。 そんな彼が、セラピストのショーン(ロビン・ウィリアムズ)との出会いを通じて、初めて自分の弱さと向き合う「決断」を迫られます。
この映画のハイライトは、派手なアクションではありません。二人がベンチで語り合うシーンや、セラピーの終盤、ショーンがウィルに投げかける「君のせいじゃない(It’s not your fault.)」という言葉です。
才能があっても、環境が許しても、最後の一歩が踏み出せないのは、自分自身がかけた「呪い」のせいかもしれない。 その呪いを解き、自分の人生を本気で生きる「決断」をする。観る者の心の奥底に深く響き、そっと背中を押してくれる、不朽の名作です。
【処方箋B】キャリアと人生の「岐路」で背中を押す映画 7選
転職、独立、あるいは情熱を仕事にするか否か。人生の大きな岐路に立った時、私たちは他人の「決断」の物語に強く惹かれます。彼らは何を信じ、何を選んだのか。その選択の重みを感じる作品群です。
※2025年10月29日時点の情報です。最新の配信状況は各VODサービスでご確認ください。
8. 『ソーシャル・ネットワーク』 (2010)

- 処方箋: Facebook創業者マーク・ザッカーバーグの「決断」の光と影。
- ここに効く: 成功のために「何かを犠牲にすること」を恐れているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
この映画は、単純なサクセスストーリーではありません。むしろ、一つの「決断」が、いかにして友情を破壊し、人間関係を歪めていくかを描いたビターな物語です。
監督デヴィッド・フィンチャーの冷徹な視点(詳しくは後述)は、ザッカーバーグの決断を一切美化しません。 彼は「世界を繋げたい」という理想と、「他人より優位に立ちたい」という強烈なコンプレックスの間で、常に最適な「決断」を下していきます。その結果、彼は億万長者になりますが、同時に唯一の親友を失う。
ラストシーン、彼が過去の恋人のFacebookページを何度もリロードする姿は、「すべてを手に入れた男」の強烈な孤独を映し出します。 「決断には、必ず代償が伴う」 その事実を、これでもかと突きつけてくる傑作です。
9. 『マネーボール』 (2011)

- 処方箋: 古い常識に「データ」で挑んだ野球監督の、孤独な決断の物語。
- ここに効く: 組織の中で、自分の「正しさ」を信じて戦っているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
ブラッド・ピット演じるビリー・ビーンは、貧乏球団アスレチックスのゼネラルマネージャー。彼は、スカウトマンの「経験と勘」が支配する旧来の野球界に、「統計データ(セイバーメトリクス)」という新しい価値観を持ち込む決断をします。
当然、組織は猛反発。ベテランスカウトからも、現場の監督からも、メディアからも、彼は「常識知らず」と袋叩きにあいます。
この映画が胸を打つのは、ビリーの「孤独」です。 自分の「正しさ」を証明するために、彼は組織を敵に回し、嫌われ者になることを厭わない。その決断の裏には、かつて「勘」でスカウトされ、選手として大成しなかった彼自身の挫折がありました。
「古い常識を壊す」とは、これほどの痛みを伴うのか。 それでも彼は決断した。ビジネスパーソンなら誰もが共感し、勇気をもらえるはずです。
10. 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 (2013)

- 処方箋: 金融界で「何でもアリ」の決断を下し続けた男の、狂乱と破滅。
- ここに効く: 「成功」の定義に迷い、倫理観が揺らいでいるあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオが組んだ、実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートの半生記。 彼は「顧客を儲けさせる」ことではなく、「自分が儲かる」ことだけを決断の基準とします。
この映画は3時間、ほぼ全編が狂乱状態です。例えば以下のようなものです。
- ドラッグ
- セックス
- 常軌を逸したパーティー。
しかし、不思議なことに、観客はジョーダンの圧倒的なエネルギーとカリスマ性に惹きつけられてしまいます。
彼は悪党ですが、自分の欲望に恐ろしく「正直」です。 この映画は、私たち観客に「もし倫理のタガが外れたら、あなたもこうなるのでは?」と問いかけます。 彼の破滅的な決断の数々を「シミュレーション」することで、逆に自分自身の「倫理観」や「成功の定義」を再確認させられる。ある意味、強烈なワクチン(予防接種)のような映画です。
11. 『スポットライト 世紀のスクープ』 (2015)

- 処方箋: 教会のタブーに挑んだ新聞記者たちの、「報道する」という組織的決断。
- ここに効く: 大きな権力やタブーに対し、「声を上げるべきか」迷っているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
ボストンの新聞社「ボストン・グローブ」の特集記事チーム「スポットライト」が、カトリック教会の神父による児童虐待スキャンダルを暴いた実話ベースの物語。
彼らが戦ったのは、単なる「事件」ではありません。地域社会に深く根差し、絶大な権力を持つ「教会」という組織そのものでした。 調査を進めるほどに、障壁は高くなります。情報を握りつぶされ、圧力をかけられ、時には自分たちのコミュニティを敵に回すことになる。
それでも彼らは、「報道する」というジャーナリストとしての決断を曲げなかった。 派手なアクションはありませんが、地道な取材、証拠の積み上げ、そして編集局での「GOサイン」を出す瞬間の緊張感は、どのアクション映画よりもスリリングです。 「職業倫理」とは何か。その重さを問いかける、骨太な社会派ドラマです。
12. 『バクマン。』 (2015)

- 処方箋: 「ジャンプで連載する」という決断を下した高校生漫画家コンビの青春。
- ここに効く: 途方もない夢に「挑戦するか否か」で迷っているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
日本の漫画文化という特殊な世界を舞台に、「友情・努力・勝利」というジャンプのテーマそのものを映画化した奇跡のような一作。 作画担当の真城最高(サイコー)と、原作担当の高木秋人(シュージン)が、「漫画家になる」と決断し、文字通り命を削って突き進みます。
この映画の凄みは、「決断の連鎖」にあります。 ライバルたちもまた、彼らに負けじと決断し、進化していく。編集者たちも、才能を信じて「GOを出す」決断をする。
特に、プロジェクションマッピングを駆使して「漫画を描くプロセス」を視覚化したバトルシーンは圧巻。 「才能」とは、生まれ持ったものではなく、「決断し、努力し続けること」の別名なのだと、熱く教えてくれます。夢を追うすべての人に観てほしい作品です。
同じく日本のマンガ原作で、デスゲームでの究極の「決断」を描いた『今際の国のアリス』の解説はこちら
13. 『セッション』 (2014)

- 処方箋: 狂気の師弟対決。偉大なドラマーになるため、すべてを捧げる決断。
- ここに効く: 自分の「才能」の限界に悩み、もがいているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
名門音楽学校に入学したドラマーのニーマンと、彼を指導する鬼教師フレッチャーの常軌を逸したレッスン(というより虐待)の日々。 フレッチャーは、ニーマンの「才能」を引き出すため、以下のものすべてを破壊しにかかります。
- 彼の人格
- プライド
- 人間関係
ニーマンは決断を迫られます。 フレッチャーの元を「去る」か、それともすべてを捨てて「狂気に応える」か。
ラスト9分19秒の演奏シーンは、映画史に残る伝説です。 そこで二人が交わす視線と、ニーマンが下す「最後の決断」。それは、師弟愛や友情といった生易しいものではありません。音楽という名の「狂気」で結ばれた二人にしか見えない境地。
これは「パワハラ反対」といった倫理的な映画ではありません。「何かを極める」という決断が、どれほど恐ろしく、そして美しいものであるかを描いた、壮絶な物語です。
14. 『ラ・ラ・ランド』 (2016)

- 処方箋: 夢を追う二人が出会い、そして「選んだ」未来と「選ばなかった」未来。
- ここに効く: 「あの時、別の決断をしていたら…」と過去を振り返ることがあるあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
女優志望のミアとジャズピアニストのセブ。夢を追う二人が恋に落ち、互いを励まし合い、そして、すれ違っていく。 この映画は、ハッピーエンドか、バッドエンドか? 議論が分かれるところですが、僕は「決断の物語」として、これ以上ないほど誠実な作品だと感じています。
二人は、お互いを愛していました。しかし、それ以上に「自分の夢を叶える」という決断を優先しました。 もし、二人が夢よりも愛を選んでいたら? 映画のラスト、幻想的なミュージカルシーンで描かれる「もう一つの人生(もしも、の決断)」は、美しければ美しいほど、二人が「選ばなかった」現実の重みを際立たせます。
心が動いたら、その瞬間を逃さないで。
※U-NEXT見放題対象作品。登録はカンタン3分。
【処方箋C】「辞める決断」と「捨てる勇気」を描く映画 6選
「始める」決断よりも、「辞める」決断の方が難しいことがあります。築き上げた地位、慣れ親しんだ環境、安定した人間関係。それらを「捨てる」と決めた主人公たちの物語は、私たちに新しい風を吹き込んでくれます。
※2025年10月29日時点の情報です。最新の配信状況は各VODサービスでご確認ください。
15. 『ちょっと今から仕事やめてくる』 (2017)

- 処方箋: ブラック企業で心身共に追い詰められた青年が、「辞める」という決断を通じて自分を取り戻す物語。
- ここに効く: 今の仕事が辛すぎて、「逃げる=負け」だと思い込んでいるあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
主人公の青山は、過酷なノルマと上司のパワハラで精神的に追い詰められ、駅のホームで無意識に線路へ倒れそうになります。そんな彼を救ったのは、ヤマモトと名乗る謎の青年。彼との出会いを通じて、青山は「会社を辞める」という、彼にとって最も勇気のいる決断を迫られます。
この映画は、「仕事を辞めること」を「敗北」ではなく、「自分を守るための積極的な選択」として力強く肯定してくれます。 日本では「石の上にも三年」という言葉に代表されるように、「辞めないこと」が美徳とされがちです。だからこそ、青山が悩み、恐怖し、それでも「辞めます」と告げるシーンは、多くの社会人にとってカタルシス(浄化)となるはずです。
「希望を捨てない」ことも尊いですが、時には「不健康な場所から戦略的に撤退する」ことも、同じくらい尊い決断です。 観終わった後、「ああ、辞めてもいいんだ」「自分の人生を生きよう」と、肩の荷が下りるような感覚を覚える。現代日本で働く多くの人にとって、最も直接的な「処方箋」の一つかもしれません。
16. 『トゥルーマン・ショー』 (1998)

- 処方箋: 自分の人生が「作り物」だったと知った男が、すべてを捨てて「現実」へ旅立つ決断。
- ここに効く: 誰かに敷かれたレールや、「当たり前」の環境に息苦しさを感じているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
主人公のトゥルーマン(ジム・キャリー)は、生まれた時から24時間、その人生がリアリティショーとして全世界に放送されている男。彼だけが、その事実を知りません。 彼が住む完璧な町、優しい妻、親友……そのすべてが「セット」と「俳優」でした。
トゥルーマンは自分が「捨てられる環境」すら持っていなかったことに気づきます。 彼は、人生で初めての、そして最大の「決断」を迫られます。
「安全で完璧な、作られた世界(=慣れ親しんだ環境)」に留まるか。 それとも、「何が起こるかわからない、未知の現実(=嵐の海の外)」へ一歩踏み出すか。
彼が番組の創造主(プロデューサー)に告げる最後の言葉と、セットの出口に向かう姿は、「自分の人生を生きる」という決断の尊さを、観る者すべてに問いかけます。 あなたの「当たり前」も、もしかしたら誰かが作った「壁」の中かもしれない。そう思わせる、強烈な一作です。
17. 『ブルックリン』 (2015)

- 処方箋: 故郷アイルランドを離れ、NYブルックリンで生きる決断をした女性の物語。
- ここに効く: 「故郷」と「新しい場所」の間で心が揺れているあなたへ。
- 視聴可能なVOD
1950年代、アイルランドの小さな町に暮らすエイリシュ。彼女は、この町には「未来がない」と感じ、新天地ニューヨークで生きることを決断します。 慣れない都会での孤独、ホームシック。しかし、彼女は仕事を見つけ、恋に落ち、次第にブルックリンを「自分の居場所」にしていきます。
そんな矢先、故郷から悲報が届き、彼女は一時帰国することに。 そこで彼女は、アイルランドでの「もう一つの幸せな未来」の可能性に直面します。
故郷か、新天地か。 優しい地元の青年か、誠実なイタリア系の恋人か。
どちらを選んでも、幸せになれる。だからこそ、辛い。 彼女が下す「最後の決断」は、どちらかの町を「捨てる」こと。 この映画は、ノスタルジー(郷愁)と、未来への希望(決断)の間に揺れる心の機微を、非常に繊細に描いています。
18. 『わたしに会うまでの1600キロ』 (2014)

- 処方箋: 人生のどん底にいた女性が、自分を取り戻すために1600kmの自然歩道を踏破する決断。
- ここに効く: 過去の過ちやトラウマから、立ち直れずにいるあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
こちらも実話に基づく物語。 母の死、離婚、ドラッグ、セックス依存……。主人公シェリルは、自暴自棄な生活でボロボロになっていました。 そんな彼女が、自分を取り戻すために選んだのは、「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)」という過酷なロングトレイルを、たった一人で歩くことでした。
彼女の決断は、「過去を捨てる」ためではありません。 むしろ、重すぎるバックパック(=過去の重荷)を背負いながら、一歩一歩、自分自身の「過去」と向き合い、それを受け入れていくための旅でした。
なぜ自分はあんな過ちを犯したのか。 なぜ母は死ななければならなかったのか。 歩きながらフラッシュバックする過去の記憶と、目の前の過酷な自然。
彼女が「捨てた」のは、過去そのものではなく、「過去に縛られていた自分」でした。 観終わった後、深い浄化(カタルシス)を感じるとともに、自分も「一歩踏み出そう」という静かな勇気が湧いてくる作品です。
19. 『ノマドランド』 (2020)

- 処方箋: 家を捨て、車上生活者(ノマド)として生きることを選んだ人々の物語。
- ここに効く: 「定住」や「所有」という価値観に疑問を持っているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
企業の倒産で、長年住んだ家と町を失ったファーン。彼女は、キャンピングカーに荷物を詰め込み、季節労働をしながらアメリカの広大な土地を移動する「現代のノマド(遊牧民)」として生きることを決断します。
この映画の凄いところは、彼女たちを「可哀想な弱者」として描かないことです。 彼女たちは、確かに経済的には困窮しています。しかし同時に、従来の「家を持つ」という価値観から解放され、ある種の「自由」を手にしている。
彼女たちは、何かを「失った」からノマドになったのか。 それとも、何かを「捨てる」ことを積極的に選んだのか。
主演のフランシス・マクドーマンド(後述の『ファーゴ』も!)に加え、実際のノマドたちが本人役で出演しており、その言葉一つ一つがドキュメンタリーのように重く響きます。 「家(Home)」とは物理的な場所なのか、それとも心の状態なのか。 私たちの「当たり前」を、根底から揺さぶる作品です。
20. 『万引き家族』 (2018)

- 処方箋: 「家族」という形を捨て、あるいは選び直す人々を描いた物語。
- ここに効く: 「家族」や「血縁」という繋がりに悩んでいるあなたへ。
是枝裕和監督(後述)のカンヌ・パルムドール受賞作。 東京の下町で、万引きで生計を立てる「一見、普通の家族」。しかし、彼らには血の繋がりがありません。それぞれが、社会や元の家族から「捨てられた」者たちでした。
彼らは、世間の「常識」や「法律」を捨て、自分たちだけの「家族」という形を選び直します。 しかし、ある事件をきっかけに、彼らの脆い絆と、それぞれが隠していた「決断」が暴かれていきます。
彼らは、本当に「家族」だったのでしょうか。 それとも、ただの「寄せ集め」だったのでしょうか。 「血の繋がり」と「共に過ごした時間」、どちらが家族を定義するのか。
是枝監督は、ここでも安易な答えを提示しません。 観る者に、「あなたにとって家族とは何か?」という重い問いを投げかけ、観終わった後もずっと考えさせられる。まさに「深い洞察」に満ちた一作です。
【処方箋D】あえて「決めない」選択を描く映画 5選
私たちは常に「決断」を迫られます。しかし、本当にそうでしょうか? 時には、「決めない」こと、流れに身を任せること、あるいは「何もしない」ことを選ぶ。それもまた、一つの尊い「決断」ではないでしょうか。そんな視点を提供する作品たちです。
※2025年10月29日時点の情報です。最新の配信状況は各VODサービスでご確認ください。
21. 『PIGGY ピギー』 (2022)

- 処方箋: いじめられていた少女が、自分をいじめた子たちが誘拐されるのを目撃し、「何もしない(通報しない)」決断をするスリラー。
- ここに効く: 倫理的なジレンマや、「見て見ぬふり」の罪悪感に苛まれているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
太った体型を理由に、壮絶ないじめを受けている主人公サラ。ある日、彼女は、自分をいじめていた張本人たちが、見知らぬ男に誘拐される現場を目撃してしまいます。男は、サラには手を出さず、立ち去る。
サラは決断を迫られます。 「警察に通報する」か、それとも「黙っている(何もしない)」か。 彼女は後者を選びます。
これは、彼女にとっての「復讐」なのでしょうか。それとも、単なる「恐怖」からくる行動なのでしょうか。 映画は、サラの「決めない」態度が、周囲の人間(心配する親、疑う警察、いじめっ子の親たち)をいかに苛立たせ、事態を悪化させていくかを冷徹に描きます。
「何もしない」という選択が、いかに重い「決断」であるか。 観客の倫理観を激しく揺さぶる、強烈な一作です。
22. 『ファーゴ』 (1996)

- 処方箋: 小さな嘘と「決められなさ」が、雪だるま式に最悪の事態を招くブラック・コメディ。
- ここに効く: つい優柔不断になって、問題を先送りしがちなあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
コーエン兄弟の傑作。 借金に困った自動車ディーラーのジェリーは、妻を「狂言誘拐」し、金持ちの義父から身代金を引き出そうと計画します。 しかし、彼は計画の細部を「決めない」まま、チンピラに実行を依頼してしまう。
この「決められなさ」が、すべての悲劇(喜劇?)の始まりでした。 小さな綻びが、次々と無関係な人々を巻き込む殺人事件へと発展していく。
一方で、この映画の真の主人公は、臨月の女性警察署長マージです。 彼女は、ジェリーとは対照的に、慌てず、騒がず、淡々と事実を積み上げ、決断を下していきます。
「なぜ、こんなこと(殺人)を?」「たかが、少しのお金のために?」 事件解決後、犯人を護送する車内で彼女が漏らす言葉は、ジェリーの「決められなかった」人生と、マージの「決断する」人生の、鮮やかな対比を浮き彫りにします。
23. 『フランシス・ハ』 (2012)

- 処方箋: 夢と現実の間で「何者にもなれない」まま、あがき続ける27歳の女性の物語。
- ここに効く: 周囲が「大人」になっていく中で、自分だけが取り残されているような焦りを感じるあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
主人公のフランシスは、プロのダンサーを目指すも芽が出ず、親友とのルームシェアも解消され、居場所を失っていきます。彼女は、周りが就職や結婚といった「決断」をしていく中で、頑なに「決めない」ことを選んでいる(というより、うまく「決められない」)のです。
モノクロの映像で切り取られる彼女の姿は、痛々しくも、どこか滑稽で愛おしい。 彼女は「決めない」のではなく、不器用で「決められない」だけかもしれません。しかし、そんな「何者にもなれない」自分を卑下せず、受け入れようとあがく姿は、観る者に不思議な勇気を与えます。
「決断」とは、立派な肩書きを得たり、何かを成し遂げたりすることだけではない。 「今の、ままならない自分」を抱きしめて、それでも前に進もうとすること。それ自体が尊い選択なのだと、この映画は優しく教えてくれます。
24. 『パターソン』 (2016)

- 処方箋: バス運転手の「何も決断しない」7日間を、ただただ見つめる物語。
- ここに効く: 変化のない毎日に、息苦しさや焦りを感じているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
ジム・ジャームッシュ監督(後述)作品。 主人公の名前はパターソン。彼はニュージャージー州パターソン市でバスの運転手をしている。そして、密かに詩を書いている。
映画は、彼の月曜日から始まり、次の月曜日の朝に終わる、一週間の「ルーティン」を描くだけです。 毎朝同じ時間に起き、妻にキスをし、バスを運転し、夜はバーで一杯飲む。 そこには、キャリアアップも、大きな事件も、人生を変えるような「決断」もありません。
しかし、不思議なことに、退屈しない。 彼の「決めない」日常が、いかに詩的で、愛おしい瞬間に満ちているか。ジャームッシュ監督は、その研ぎ澄まされた視点で、繰り返される日常そのものを「肯定」します。
「決断」を迫る社会に疲れた時、この映画は「そのままでいいんだよ」と、優しく語りかけてくれるでしょう。
25. 『フォレスト・ガンプ/一期一会』 (1994)

- 処方箋: 知能指数は低いが、純粋な心で「流れに身を任せ」生きた男の数奇な人生。
- ここに効く: 考えすぎて、身動きが取れなくなっているあなたへ。
- 視聴可能なVOD:
トム・ハンクス(後述)演じるフォレスト・ガンプ。彼は、自ら何かを「決断」しません。 「走れ」と言われれば走り、「戦え」と言われれば戦い、「エビ漁をやれ」と言われればやる。 彼は、ただ目の前のことに純粋に、誠実に取り組むだけ。
しかし、その「決めない」生き方が、皮肉にも彼をアメリカ現代史の「決定的瞬間」に立ち会わせ、大成功へと導いていきます。
彼は、過去を悔やまず、未来を心配せず、ただ「今、ここ」に集中する。 彼の生き方は、私たちが「決断」という言葉に縛られ、どれだけ多くのエネルギーを浪費しているかを教えてくれます。
「人生はチョコレートの箱のよう。開けてみるまで中身はわからない」 考えるのをやめて、ただ「やってみる」。そんなシンプルな真理に気づかせてくれる、永遠の名作です。
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深掘り考察:「決断」を演じる名優たち
なぜ、ある俳優が演じると「決断の重み」が際立つのでしょうか。 それは、彼らが持つ「パブリック・イメージ」と「役柄の決断」が、スクリーン上で化学反応を起こすからです。 ここでは、特に「決断」の演技が光る2人の名優を分析します。
トム・ハンクス:決断の「重み」を背負う男

トム・ハンクスは、「アメリカの良心」と呼ばれる俳優です。 彼の顔には、「誠実さ」「信頼感」「平凡な市民の代表」といったイメージが刻まれています。
だからこそ、彼が「異常事態」の中で「決断」を迫られる役柄を演じると、その重みが倍増します。
- 『ハドソン川の奇跡』 (2016): サリー機長として、墜落する飛行機をハドソン川に着水させるという「究極の決断」を下します。しかし、映画の焦点はその後。彼の決断が「本当に正しかったのか」を執拗に問われる公聴会です。トム・ハンクスという「良心」が疑われるからこそ、観客は「彼の決断は正しかったはずだ」と強く感情移入します。
- 『フォレスト・ガンプ』 (1994): 前述の通り、彼は「決めない」男を演じます。しかし、彼が唯一、自らの意志で強く決断する瞬間があります。それは、幼なじみのジェニーと、彼女が産んだ自分の息子を守ると決める時です。「良心」の象徴である彼が、純粋な愛のために行動する姿は、強烈なカタルシスを生み出します。
トム・ハンクスが演じる「決断」は、常に「他者のため」「コミュニティのため」という誠実さに裏打ちされています。だからこそ、私たちは彼の決断を信じ、応援したくなるのです。
彼が『決断の重み』を背負う艦長を演じた、映画『グレイハウンド』のレビューはこちら
メリル・ストリープ:決断の「多層性」を体現する女

メリル・ストリープは、その圧倒的な演技力で、どんな役柄にも「知性」と「多層性」を与えます。 彼女が演じる女性の「決断」は、決して単純な「AかBか」ではありません。その裏には、無数の葛藤、秘めた覚悟、そしてしたたかな計算が渦巻いています。
- 『プラダを着た悪魔』 (2006): 鬼編集長ミランダ・プリーストリー。彼女の日常は、すべてが「決断」の連続です。「青」と「セルリアンブルー」の違いを瞬時に見抜き、部下の人生を左右する決断を冷徹に下す。しかし、映画の後半、彼女がふと見せる「私生活の脆さ」。あの「決断」の裏には、これほどの孤独があったのかと、観客は彼女の「人間性」に触れることになります。
- 『マディソン郡の橋』 (1995): 平凡な主婦フランチェスカが、4日間だけ訪れたカメラマンと恋に落ちる物語。彼女は「彼と駆け落ちする」か、「家族の元に残る」かという究極の決断を迫られます。雨の中、彼が乗る車のドアノブに、彼女が手をかけるシーン。あの数秒間のためらいに、彼女の人生のすべてが詰まっています。メリル・ストリープは、言葉ではなく、手の震えだけで「決断の痛み」を完璧に表現しました。
彼女が演じることで、「決断」は単なる行動ではなく、その人物の「全人生」を背負ったものとして、私たちの前に立ち現れるのです。
深掘り考察:「決断」を描く監督たち
同じ「決断」というテーマでも、どの監督が撮るかによって、その「視点」は全く異なります。 ここでは、対照的なアプローチで「決断」の本質に迫る3人の監督に注目します。
監督らの分析の前に、日本が誇る宮崎駿・高畑勲という二人の監督の関係性を深掘りした記事も、あわせてご覧ください
▶なぜ宮崎駿は高畑勲を必要としたのか?ジブリの魂を読み解く
デヴィッド・フィンチャー:決断を「解剖」する冷徹な視点

デヴィッド・フィンチャー(『ソーシャル・ネットワーク』『ゴーン・ガール』『セブン』)は、人間の「決断」を、まるで外科医がメスを入れるかのように冷徹に「解剖」する監督です。 彼の映像は常にクールで、スタイリッシュ。しかし、その裏にある感情は非常に暗く、湿っています。
彼は、主人公の決断を「感情」で描きません。 その決断が、いかにロジカルに(あるいは、いかにコンプレックスに基づいて)行われたかを、膨大な情報量と冷徹な視点で暴き出します。 『ソーシャル・ネットワーク』でザッカーバーグが下す決断の数々は、友情や理想ではなく、「承認欲求」と「劣等感」というロジックで説明されていきます。
フィンチャー映画の主人公は、決断によって「救われる」ことはありません。 むしろ、決断の「結果」として、さらなる孤独や闇に引きずり込まれていく。 彼の映画は、「決断とは、かくも厄介で、報われないものだ」という、ビターな真実を突きつけます。
デヴィッド・フィンチャーのような監督の『色彩』による演出術に興味がある方は、こちらの記事もどうぞ
▶監督が仕掛けた“色の意味”を読み解く色彩設計術
ジム・ジャームッシュ:決断を「無化」する詩的な視点

ジム・ジャームッシュ(『パターソン』『コーヒー&シガレッツ』)は、フィンチャーとはまさに対極にいる監督です。 彼は、そもそも「決断」という概念に興味がありません。
彼の映画では、大きな事件は起こりません。主人公は、キャリアや人生の「大きな決断」を迫られることなく、ただ淡々と日常を生きています。 『パターソン』の主人公は、詩を出版するという「決断」をせず、ただノートに書き留めるだけ。
ジャームッシュは、「決断しないこと」「変わらないこと」の価値を、詩的な映像で肯定します。 彼の視点を通すと、バスの窓から流れる風景、バーでの他愛もない会話、そういった「何でもない瞬間」こそが、人生の豊かさなのだと気づかされます。
「決断」に疲れた時、ジャームッシュの映画は、最高の避難場所(シェルター)になってくれるでしょう。
是枝裕和:「日常」に潜む静かな決断

是枝裕和監督(『万引き家族』『ベイビー・ブローカー』『真実』)は、「決断」という言葉が持つ「派手さ」を、徹底的に排除する監督です。 彼の映画で描かれるのは、ハリウッド的な「劇的な決断」ではありません。
日常の中で、知らず知らずのうちに積み重なっていく、小さな小さな「選択」の数々です。 『万引き家族』の家族は、「この子を誘拐しよう」と劇的に決断したわけではありません。日常の延長線上で、気づいたら「そうなってしまっていた」。
しかし、その「小さな選択」の積み重ねが、やがて取り返しのつかない「大きな決断」として彼らに跳ね返ってくる。 是枝監督は、そのプロセスをドキュメンタリーのような視点で淡々と見つめ、観客に「あなたなら、あの時どうしましたか?」と静かに問いかけます。 彼の映画は、「決断」とは日常と地続きであり、誰もが当事者なのだと教えてくれます。
まとめ:あなたの「処方箋」は見つかりましたか?
ここまで、25本もの「決断」の映画をご紹介してきました。 あなたの今の迷いに、そっと寄り添ってくれる一本は見つかったでしょうか。
- 日常の「半歩」を踏み出したいあなた。
- キャリアの「岐路」に立つあなた。
- 何かを「捨てる」勇気が欲しいあなた。
- あえて「決めない」ことを選びたいあなた。
映画は、あなたの人生の「答え」を教えてはくれません。 しかし、他人の人生を「シミュレーション」することで、あなたの視点を変え、凝り固まった思考をほぐす手伝いをしてくれます。
この記事が、あなたの「次の一本」を選ぶガイドとして、そして、あなたの「次の一歩」を踏み出す小さなきっかけとして役立てば、これほど嬉しいことはありません。
観終わった後、あなたの日常が、ほんの少し違って見えることを願って。
このブログでは、これからもあなたのVOD選びのパートナーとして、様々な角度から有益な情報をお届けしていきます。
どのサービスで観るか迷ったら、こちらのVOD徹底比較記事へ
▶動画配信サービス(VOD)15社徹底比較!
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